携帯電話

「・・・手塚!!携帯買え!!」 部室に机をバンッ!と叩いた音と怒鳴り声が響く。 どちらも発信源は、乾貞治である。 「買ってもいいが、俺は携帯を携帯する自信もなければ、  使いこなせる自信もない」 きっぱりいう台詞でもない。 「携帯を携帯しなければ、ただの電話だ。持て。  使いこなせなくていいから、普通に使え」 「何故、そうも俺に携帯を勧めようとするんだ」 「理由@俺んちの電話代がかさんでいる。すぐに必要なデータを伝えるために、  お前んちに電話してもお前の理解力不足のため中々伝わらない!  メールなら文字で送れるから、それプラス電話ならマシだろう」 「理解力不足とはなんだ」 「お前は頭は良い。良いが、何故かそれは勉強に関してだけであって、  テニスの理論やコーチ力には欠けている。まあ不思議と体が自然に動くのか、  テニスの実力には問題が無いようだが・・。  それを補うために、俺が助けてやっているんだろう。  ・・とにかく理由A電話しても繋がらない」 「母さんは長電話が趣味だからな」 「理由B部長なんだから、いつでも連絡をとれるようにするのは、  義務だ。以上の理由から買え。買ってもらえ」 「・・・・・」 「理由C大好きな手塚の声いつでも聞きた〜いvv」 「なっ///!!!」 動揺したのは、手塚ではない。 乾の方である。 そして、無言で睨み合う二人の雰囲気に入ってこられるのはただ一人、 不二くらいしかいない。 というか、係わり合いにはなりたくないと、部員は全員すでに、 コートに出て行ってしまっている。 「なんだ。そういうことなら早く言え。明日でも買おう」 「不二っ!!勝手に理由を増やすなっ//!!  手塚っ!納得するな!!」 「でも本当のことでしょ。僕も関わりたくなかったけど、  じれったいというか、うっとおしいからわざわざ気持ち悪い声だしてまで  代わりに言ってあげたんじゃないか」 「て、手塚の声なんて、なんでわざわざ夜まで聞かなければなんないんだっ//!!  と、とにかくパンフレット置いていってやるから、親御さんと相談しろよな!  じゃあなっ!」 そういって乾は走り去っていった。 残されたのは、乾と同じ会社で、乾の使用している機種のページに 使いやすくておすすめと書き込んであるカタログが一つ。 翌日。手塚の手の中には乾と同機種、同色の携帯があった。 いや、正確には未開封の箱ごとあった。 「買ったぞ。が、使い方がわからん」 そういいながら、3−11の乾の机に置く。 教室には当然11組の生徒と、休み時間はよく遊びに来ている不二の姿がある。 言うまでもなく乾もいる。 「せめて開封して説明書を読めよ。読むことから放棄するな。  ・・ん・・お前、俺と全く同じ携帯じゃないか。  しかたないな、ややこしいからこれをつけておけ」 台詞の割りに驚いていない様子で、てきぱきとストラップをつける。 「レギュラージャージじゃないか」 ストラップは手のひらサイズのレギュラージャージの上着だった。 「どうせならテニス関係のものがいいだろうと思ったんだけど、  なかなかいいのがなかったからね、作ってみた」 「あー、いいなぁ。かわいいじゃないそれ。僕のはないの?」 「え?あ、ああごめん・・。他に欲しがる人がいるとは思わなかったから・・  こんな俺なんかが作ったやつ」 「ふーん。じゃあこれは?」 乾の制服のズボンの後ろポケットから顔を出していた、 乾の携帯を取り、机に置く。 それには、しっかり例のストラップがついていた。 「ち、ちょっと勝手に取るなよ!・・これはっていわれても・・。  布が余ったから作ってみただけだよ」 「乾とおそろいというわけだな」 「偶然だ!ぐ・う・ぜ・ん!」 「あれ?じゃあ手塚のと区別つかないじゃん。これ、はずしちゃうよ」 「え!?もう!いいじゃないか。俺が手放さなければいいんだろ。  取るのも面倒くさいよ、ほらチャイムが鳴ったぞ、教室に帰れよ二人とも。  手塚、昼休みに来い。使い方を教えてやる」 「やれやれ。そういうことにしておいてあげるよ。じゃあね」 「わかった。弁当を持ってくる」 昼休み。 「あ゛ー・・お前がここまで機械音痴だとはデータに無かったよ・・。  なんとかメールは送れるようになったようだが・・。  でも、ものすごーーーーーーーく時間がかかるから意味ないよ・・。  アドレス帳に登録とかは、はるか彼方だな・・。  とりあえず俺のアドレスを登録しとくよ。他の奴らのは練習だ。  自力で頑張れ、リストをやるから」 「仕方ないな、説明書を読むことにする」 「読む気すらなかったのかよ・・」 キーンコーンカーンコーン 昼休み終了のチャイムがなり、手塚は席を立った。 「あとでメールを送る」 「んー。期待せずに待ってるよ」 放課後。いち早くHRが終わったのは、大石、菊丸、不二、乾のクラスであった。 1,2年は今度の研修旅行についての話し合いがあるらしく、 まだ誰もいない。 「大石〜!先に打ってようよ!」 「そうだな。全国も近いことだし、練習しなきゃな」 「あ・・俺は不二と話したいことあるから、先にいっててくれ」 「ん。わかった」 二人が出て行ってから、二人きりになって空間に微妙な雰囲気が流れる。 「なに?言いづらそうだけど、話たいことがあるんじゃないの?」 「・・実は・・手塚からこんなメールが・・」 乾。愛している。 「・・・・・のろけ?(怒)いちゃつくなら、二人だけでやってよ」 「だ、誰かのろけだ・・//!違うんだ・・このメールを見てくれよ・・」 一通目。12時30分。「いぬい」 二通目。12時31分。「いぬい、あ」 三通目。1時30分。「いぬい、あいしてる」 四通目。1時40分。「乾、愛している」 「最初の方が意味不明だけど、やっぱりのろけ?僕に対する嫌がらせ?」 「だ、だって。手塚のやつ確実に成長してきてるぞ!?  明日にでもなったら、何を送ってくるか・・!」 「知らないよ、そんなこと・・」 「あ・・また来た・・」 五通目。1時50分。「乾、愛している(ハートの記号)」 「うぐ・・は、ハートつけやがった・・!ほら、不二っ!!」 「だからどうでもいいって・・。っていうか、返事しなくていいの?」 「な、こんな迷惑メールに返事するわけないだろうっ!」 「ふーん。乾は迷惑メールに『保護』なんてかけるんだ」 「う゛・・迷惑メールは会社に知らせるのがユーザーの義務みたいなものだからな。   間違って消さないようにだ、何か問題・・あるか・・?」 顔を赤くしながら、凄まれても怖くないよ・・と思いながらも、 不二は「はいはい」と流してやる。 そうこうしているうちに、また着信音が鳴る。 「・・・・・・・・//(絶句)」 六通目。1時55分。「乾。愛している(ハートの記号&手塚の顔写真添付再生付き)」 「・・絶対、手塚に理解能力がないっていうのは間違いだよ・・。  あいつ君に構って欲しいから演技してるだけだって・・」 心底あきれたように言う不二を尻目に乾はまだ凍り付いていた。 後日談。 「ん・・?手塚の携帯だ・・」 手塚が携帯を買って数日がたった。 なんとか携帯を携帯していた手塚だが、今日は部室に置き忘れたらしい。 「・・・・・・・・・・・・まさかと思うけど・・浮気・・」 恋人の携帯がある。 部室には誰もいない。 「・・・おーっ!?この携帯は俺のかな、手塚のかな。  メールを見ればわかるよな、これは不可抗力だ」 わざとらしい声に加え、無理のある理由を言いながら、 恐る恐る携帯を見る。 『受信メール』 件名 「みほで〜す♪」    「愛してるわ手塚君vv」    「初メール&ラブメール」 等々同じような件名のメールが無数に続く・・。 「・・・・・・・・・・」 『アドレス帳』 乾貞治   090-****-****  ***@***.ne.jp 青山美穂子 090-****-****  ***@***.ne.jp 加藤佐保 090-****-****  ***@***.ne.jp 河村奈美 090-****-****  ***@***.ne.jp 木村カレン 090-****-****  ***@***.ne.jp 児島美香 090-****-****  ***@***.ne.jp いうまでもなく、延々と女性名が続いている。 ミシッ! 乾は無言のまま、手塚の携帯を握り締めた。 部室から異様なオーラが漂っていた。 HRを終え、着替えるため部室にやってきた部員達は、 恐る恐るドアを開け、一人無言でベンチに座っているオーラの主を確認すると、 そのまま、そっ・・とドアを閉めた。 「何をやっている!!」 「あっ。部長〜!!・・な、なんか乾先輩の様子が・・」 「乾が!?どういうことだ!説明しろ桃城!!」 「え゛えーと・・なんか部室のベンチに座って携帯らしきもんを  無言で握り締めてます・・入りづらいんでなんとかしてくださいよ〜・・」 「携帯・・?」 訝しげながらも、部室のドアを開ける。 「乾」 ガンッッッッ!!!! 手塚の頭をかすり何か黒いものが飛んでいった。 「な、なんだ!?携帯・・?」 投げつけられドアに激突し床に落ちた哀れな物体を確認する。 「あれは俺の携帯か・・?そういや置き忘れたな・・。  乾、どういうことだ!?」 「・・・・・・・・」 「乾!!」 黙り込む乾にしびれをきらした手塚が、叫ぶと乾は突然立ち上がり・・ 「手塚の浮気者ーーーーーーー!!!!!!!!!」 バッシーーーーン!!! 突然の暴行?に手塚はよけることもできず、まともに平手を食らう。 「ぐはっ!・・」 乾はそのまま「はあはあ」と肩で息をしながら、なみだ目(見えないけど)で、 「め、メールもろくに送れないくせに・・!なんであんなにいっぱい  女の子からのメールやアドレスがあるんだよっ・・!!  どういうことだ!?説明しろっ!!」 「っ・・。女子からのメール・・!?あれはあいつらが俺の携帯を無理矢理奪って  勝手になんか色々やったんだ!!」 「な、なら消せよっ!」 「消し方がわからん」 「添付つきのメール送れるほどになったくせに、嘘をつくなっ!!」 「お前に俺の気持ちを伝えるために必要なところしか、読んでない。  お前からのメールを消す必要は全く無いからな」 「・・そ、そんな・・っ!」 「何がそんなだ。それが紛れもない真実だ」 「・・・・・・・・」 「乾?」 先ほどまで叫び続けていたのとは、正反対に黙りこむ。 そして・・ 「手塚!ごめんっ・・!おれ、俺・・!!」 涙目のまま、手塚に抱きついた。 突然の暴行はよけれなかったくせに、手塚は突然の愛の行動は軽々と受け止める。 「わかればいい」 「手塚・・!」 部室から異様なオーラが漂っていた。 ただし今度はピンク色のオーラが。 効果は同じで、やっぱり部室には入れないのであった。

思いつきで勢いのまま書いてしまいました。 つきあっていないかと思えば、結局どう転んでも バカップルではた迷惑な二人に納まりました。 乾さんがかなり素直じゃない、そして乙女路線(笑) 不二はただの友人というか、二人にとっての良い相談相手。 不二も関わりたくは無いけど、見捨てもられず、 相談に乗ったりしているという感じです。

 2005年 4月30日




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